2010年12月22日水曜日

「標準治療推進記事」はアトピー患者を分断する-「医療秩序」補足-

2010年12月22日(水)

<アトピーに関心がなければ、「標準治療推進記事」を語れないのか>
 さて、ありがたいことに昨日のブログに対し、「私にとって、そいういうわからなさではない」とメールをくださった方がいます。昨日のブログをいじりはじめ…ふと、「いや、これは、追記したほうがいいのではないか」と、補足説明をさせていただくことにしました。

その方は、「アトピーについてしらないから、内容が判断できない」とおっしゃいます。理由は、以下の2点です。
・読者対象が、アトピーになやむ人や関心のある人である
・アトピー治療現場に関する知識がないため、ぴーふけの立場の妥当性が判断できない

こう思っていらっしゃるのは、実は昨日メールをくださった方だけではありません。あちこちで、同じようなことを言われてきました。たとえば、「アトピーの『標準治療』をめぐる記事について、原稿をかかせてもらえないか」と雑誌社に打診したときのことわりの理由であったり、「ブログ、はじめました」と紹介したときの「読みつづけない理由」であったり…。
「しらないことには謙虚でありたい」という誠実なお返事だとは思います。が、私としては、「いや~。そうかもしれないですが、そうでもないんですよ」とお返事してきました。
たとえば、ときどきコメントしてくださるaccelerationさんは、おそらくアトピーそのものに関心があるわけではないと思います。「医療業界に共通する問題」に関心があるために、このブログを訪れてくださっているように思います。


<「標準治療」批判と「標準治療推進記事」批判は、同じではない>
 私はたしかに「こどもに安易にステロイド処方しないで」と思っています。「ステロイド依存になった人の存在を無視しないで」とも思っています。だからといって「標準治療はすべてだめ。アトピーの人はすべからく、ステロイドを使用しないで生活すべきだ」などとは考えていません。
 「ならば、なぜ標準治療を推進する記事を批判するのだ」と問われるかもしれません。それは、たとえ少数でも「標準治療」から疎外されている人がいるからです。さらに「標準治療」そのものの是非をこえて、「標準治療」に権威づけをする「医療秩序」「社会構造」に問題があるとおもっているからです。

<「発話の背景」に着目する>
もう一度、昨日の出発点にもどります。
「朝日新聞の記事を信じてはいけないのか?」
この質問は表面的には、「標準治療は、ただしくないの?」という問いかけです。
しかし、ある発話には、背景があることを昨日説明しました。この問いかけの背景にあるものはなにか。
それは、「医学に対して疑義を呈する/医学的権威に納得しない」というスタンス自体が「意味がわからない」という言明、つまり「医学の権威にひれふさないあなたはおかしい」という批判があるのではないでしょうか。
だから、「医学の権威にはむかってまで批判するあなたは、そうとうな「科学的根拠」をもっているはずだ」
「でも、私には、科学的知識がないから、『医学の権威』と『医学にはしろうとであるあなたの意見』を比較し、判定することはできない」「さらに、あなたが依拠する『脱ステ医』は医学界で認められていない」「よって、安易にあなたには賛同できない」という論法が成立します。
こうした「医学には権威があるはずだ」「科学的真理は一つだ」というような発想は「本質主義」的です。

「本質主義」的発想をする人、つまり「医療秩序」に従順な人に対し、いくら「だって、標準治療でなおらない人がいるんだよ」とか、「ステロイド依存になる人もいるんだよ」などの「対抗言説」をもちだしても、納得はしないでしょう。
おおくの場合、あいまいに「へ〜。むずかしんだね。アトピーのこと、よくわかんないし…」と言葉をにごすだけで、その人はあいかわらず「だけど、朝日新聞が『ただしい』って記事にしてるわけだよ。明らかにまちがっていることなら、のせないはず」と信じつづけるのだとおもいます。
世の中は、「白黒つけられないことがたくさんある。おおくがグレーゾーンでなりたっている」と経験的に学んできたであろうおとなが、なぜ「医学」となると、「白黒」が明確だとナイーブに信じるのでしょうか…。これがまさに、「医療秩序」のなせるわざだと思います。

「『標準治療』の是非が自分の中ではっきりしないと、ぴーふけのブログの評価はできない」とする考え方は、「医療秩序」にのっとった「ふるまい」の選考結果であるといえます。

では、もし、「医療秩序」に従順な人の身近に、「標準治療」ではたちゆかないアトピーをもつ人や、「ステロイド依存」におちいった人が出現してしまった場合、どうするのでしょうか。
おそらく、「標準治療」に反した行動をまずさがします。次に「例外化」をします。もし、その数がおおくて、どちらの方法も使えないとなったら、そのときは「標準治療、全否定」にむかうのではないでしょうか。
ある意味、ちょっと危険です。

そうそう、「では、アトピーに関心がなくても、ぴーふけのブログを評価できるケースは?」と問われる方もいらっしゃるでしょうか…。アトピーにかぎらず、医療業界の中の「標準治療」との距離の取り方をきめれば、「評価」できます。むろん、その場合「肯定的評価」も「否定的評価」も可能です。あ~、でも、距離の取り方をきめるには、「医療業界」を相対的にみる習慣がないと困難かもしれません…。(accelerationさんは、「業界内」の方だそうですが、かなり距離をおいて「業界内動向」をみていらっしゃるようにおもいます…)


<「標準治療推進記事」は、アトピー患者を分断する>
しつこいですが、私は「標準治療」は一定の効果をあげているのだろうと推測しています。しかし、標準分布には、つねに両端があるのです(それがなければ、標準分布として成立しませんし…)。「標準治療推進記事」は、その両端にいる人を切りすてます。
「標準治療」が喧伝されれば、それに従って状態を保っている人には優越感を与えますが、それに「従えない」「標準治療ではたちゆかない」両端の人たちは、社会から「非科学的」「自己責任」として批判され、沈黙をしいられるのは昨日書いたとおりです。そして2CHにときどきあるように、ステ使用派と脱ステ派が、はげしい舌戦をくりひろげることに…。不毛だと思います。「信条」をかけた戦いは、おうおうにして不毛です。それによって、アトピーは悪化してもよくならなさそうですし。「信条」をかける代表的な戦いとしては、宗教戦争がありますが、だいたい悲惨なだけで、いいことないし…。勝ったほうの勢力拡大と満足感だけ!?(すみません、脱線しました)

ひとつだけ、私が自信をもって断言できることがあるとすれば、それは「標準治療推進記事は、アトピー患者を分断する」ということです。

私が問題にしているのは「標準治療“だけ”が正しい」とするような医師のあり方であり、それを支持する想像力のない記者のあり方についてです。

私は、「標準外」の人をきりすてるような社会のあり方に、異議申し立てをしつづけていきたいと思っています。これは、アトピー患者だけの問題ではありません。すべての社会的マイノリティに共通する問題です。

メールをくださった方、「仮想敵」になってくださって、ありがとうございます。
さて…「仕事があります!」とあれだけさわいでいたのに、昨日からブログにほぼまる一日以上ついやしてしまいました…。

次回は、29日ごろに。
それまでに、もう息子たちがどんなに興味深い行動をとっても、どんなに思考を刺激するメールをいただいても、ふっくんのアトピー近況しか、かきません!(と、自分を戒め…(笑))

すてきな年末をおすごしください!

4 件のコメント:

  1. アトピーのそれは見ていませんが、エビデンスに基づくと称する各種ガイドラインを見てもエビデンスレベルの高い-無作為割り付け比較試験(RCT)に基づく-推奨されている治療はとても少なく、広く行われている治療でもエビデンスに基づいて推奨されない、というものは多数あります。
    そしてそのエビデンスであるRCTにしても利益相反問題をはじめ、さまざまなバイアスがあり疑いを入れる余地がたぶんにあるものが多いというのも周知のことです。
    なので仮に「標準治療」というものがあるにしても、それはせいぜい「今のところ他の治療法より、あるいは何もしないよりもましと考えられている」程度の期待しかできないはずです。当然他の治療はあるわけであり、個々人、ひとつひとつのケースには「標準治療」が不適なケース、他の治療法がよりまさるケースはあって当然なのです。
    その意味で「標準治療」への批判に過敏に反応する専門家は理解に苦しみますし、少なくとも「科学的」ではないという意味で専門家を名乗ってよいのか、という気持ちです。
    (もちろん「科学的」であるなしを絶対的な基準として持ち出すつもりはありません。「科学」も社会的に構築されたものだというのはその通りですし。そうではなく、専門家と議論する共通の土俵としての意味です。)

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  2. もちろん、ぴーふけさんと同じく、「標準治療」や各種ガイドラインの存在意義は認めています。それよりもはるかに根拠の乏しい(習慣とか信念による?)治療を行ってうまく行かないケース、「標準治療」を守れば治療成績がよくなり、患者の利益になると思えるケースをしばしば見るからです。

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  3. どうも僕たちはアトピーの「標準治療」を批判していると思われてしまいますが、正確には「アトピーには標準治療以外認めない」と訴える標準治療の権医を批判してるんですよね…。
    標準治療派の医師の研究データでも、改善しない患者が1割~2割ほどいることが証明されている。やのにステロイドしかないと言う。では改善しない人はどうすればいいのか?標準治療で大半の人がよくなるのは承知です。ですから僕は人に対して「ステロイドはやめたほうがいい」なんてことは言わない。相談にに乗られた場合のみこんな方法がありますよと答えます。

    moto先生は脱ステ医ですが、ステロイドで良くならない患者がいることからステロイドを止めて良くなる方法を模索し出しました。日本中の皮膚科医がみな同じようにそれぞれに標準治療と、それで良くならない患者の治療方法を模索していたならmoto先生はもしかしたら標準治療とそうでない治療、それぞれに合った治療をされていたんじゃないでしょうか。ブログでもそのことに触れている節はあります。しかし全国の皮膚科医はそれをしなかった。結果ステロイドでよくならない患者はmoto先生や佐藤先生の元へと流れこみ、嵐のように集まってくる脱ステ患者のみを見ることとなった。結果脱ステ医は「脱ステ患者」のみを見る特異な医師というレッテルを貼られてしまった。そしてそれが使命のようになってしまい、重荷になってしまった。皮膚科学会がステロイド治療以外を疎外し、そのために苦しむ患者の最後の砦となった脱ステ医を、その原因を作った学会がさらに批判、排除しようとする。はっきり言って異常です。2極化を作ったのは学会であって、脱ステ医側は好きで脱ステ専門医になったわけではないと思います。

    ガン患者を治療する場合、医師はあらゆる方法を試みることでしょう。どの科でもそうです。基本に標準治療があり、だめなら違う方法を探す。これが医療です。皮膚科も同様のはずがそうでない。頑なに批判しかしない権医は医療を行う資格などないと思います。

    また長々してしまいましたが脱ステ医も脱ステ患者も決して標準治療が悪いといってるわけじゃないんですよね…。

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  4. こんばんは。
    お二方とも、刺激的なコメントありがとうございます!
    考えたいことがわらわらと…。とりあえず、エビデンス(EBM)についてだけ、お返事かきます。

    「医療現場ではEBMにもとづかない治療がむしろ普通に行われている」と批判したのは、米山公啓『医学は科学ではない』(筑摩書房、2005年)でしたね…。
    「EBM=統計的に正しい」ことになってしまっている現状に異議をとなえていて、おもしろかったです。
    「エビデンス」ね〜。と、検索していたら、医学書院の週間医学界新聞2002年3月4日に掲載された李啓充「EBMに基づいたガイドラインの滑稽」という記事にあたりました。http://www.igaku-shoin.co.jp/nwsppr/n2002dir/n2476dir/n2476_02.htm#00

    EBMの講演で、ある医師が「EBMの究極の目的は診療ガイドラインを作ることにあるはずだが,ガイドラインから外れる症例ではどうしたらよいのか」と質問します。
    李氏がこれにあきれかえったエポソードがかかれています。
    「厚生省、EBM概念、まちがって普及しとるやんけ」と…。

    彼は、「厚生省が宣伝したEBMは、プレタポルテ(=既製服)だ」と批判し、「本来的なEBMとは、オートクチュール(=注文服)だ」と主張します。
    ガイドライン(=標準治療)にあわせた医療をおこなうのではなく、患者にあわせた医療をおこなうためにEBMはあると。
    だから、例外的な患者に対して、いかに既存の臨床知見をもちいて、その例外に対処するかが、重要だと。

    これだけで、いっきにファン…。李さんの本をいっきに注文してしまいました…。また、春になったら、よんでレポートします!

    ノブコフさんがおっしゃるように、どの医者も李さんのようにEBMを理解しているなら、moto先生はたおれずにすんだし、佐藤先生はあんなにもラディカルにならなくてすんだのに、と思います。
    「標準治療」と同じく、脱「ステロイド療法」の知も、医師間で共有され、蓄積されていったであろうと…。

    もちろん、オートクチュールはコストがたかくつきすぎるからこそ、プレタポルテが登場したわけで、これは医療業界だけではなく、近代社会全体の問題なのですが…。
    (標準治療なら1分診療が可能ですが、脱「ステロイド療法」は、おそらく最低でも15分はかかり、さらに薬剤でもうけることもできません…)

    でも、お二方のおかげで、また春への宿題がふえました(笑)。

    ありがとうございます!!!

    accelerationさん、すてきな休日を!
    ノブコフさん、旧職場を満喫してきてください!

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